めたくそ良記事!

 

 

 

途中からは。。。↓

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S15103538.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 韓国人詩人による詩集の日本語版を手にして、斎藤さんはしみじみと言った。「こういうものが出せるようになったのは、韓国の文学を読む日本の読者の裾野が広がったからですね。裾野に支えられて、出版が続いています」

 その裾野はどう形作られていったのか。斎藤さんがまず挙げた作品が、ハン・ガンの「菜食主義者」だ。出版社クオンが2011年、「新しい韓国の文学」シリーズの1冊目として発刊した(きむ ふな訳)。世界的に権威あるブッカー国際賞を16年に受賞。「すでにその5年前に、いい日本語で読める翻訳本が世に出ていたのです」

 15年には、斎藤さんが韓国人翻訳者と共訳したパク・ミンギュの「カステラ」(クレイン)が第1回日本翻訳大賞を受賞した。この2作品が注目を集め、「韓国文学って、おもしろいんだね」という流れにつながっていったと、斎藤さんは考えている。

 

 ■女性差別描き出す

 かつてなく書名が知れ渡ることになる小説の日本語訳が、18年に登場する。チョ・ナムジュの「82年生まれ、キム・ジヨン」(筑摩書房)。韓国社会で女性が日常的に受けてきた差別を描くこの作品も、斎藤さんが訳した。

 「自分は構造的な差別を受けている当事者なんだと、この本を読んではっきり認識した日本の女性読者がたくさんいたのでしょう。この世の仕組みが私に味方をしていない、自分の努力不足のせいで不利益をこうむっているのではないと」

 日本でも共感が巻き起こり、韓国文学の読者層を広げるうえで決定的な一打となった。発行部数は23万部を超えている。

 日本に住む人たちが韓国文学にひかれる理由はどこにあるのか。「消費社会のあり方はすごく似ているけど、日本とは異なる側面でしょうか。人と人の関係の近さ、交わりの深さから来る激しさ、独特のユーモア。社会問題を真っ向から扱っていても、物語がおもしろい。人間がいきいきと描かれ、心の弾みや活力が伝わってきます」

 斎藤さんは大学に入り、考古学を専攻するかたわら、女性問題を研究するサークルに入った。当時はフェミニズムという言葉を掲げていなかった。日本の男性らが韓国で買春をする「キーセン観光」に反対する活動をしたり、民主化デモを軍が制圧した1980年の光州事件に衝撃を受けたりしながら、韓国への関心を深めていき、韓国語の学習も始めたという。

 そのころには、いまのような韓国文学をめぐる活況は想像できなかった。日本で韓国語を学ぶ人が増えてきたことも、韓国文学の受容に影響していると斎藤さんはみている。

 

 ■事欠かないテーマ

 韓国文学も変わった。「たとえば軍事独裁政権下で必死に生きる人たちの物語だと、日本の一般の読者にはなかなか、とりつく島がなかった。共有できる感情が少なかったし、検閲をかいくぐるための表現もわかりにくかった」と振り返る。

 民主化までの韓国には、軍事独裁政権のもとで書けないことがあった。多くの書かれるべきことがまだ、書かれるのを待っている。そこへ、才能ある作家がどんどん出てきて、自由に書ける時代になった。民主化後に成人し、活躍している作家は、いろんなカルチャーに接してきた人たちだ。重厚なテーマも軽やかなものも、様々な作品が世界各国で読まれているのだという。

 「劇的な歴史を持つ韓国は、文学のテーマに事欠かないのです。日本による植民地支配、朝鮮半島の南北分断、軍事独裁政権。自分たちの力で社会を変えてきた経験を持っている。そして、無念の思いを抱きながら、大量の人間が死んでいった歴史がある。作家の力によって、書いて追悼しています」

 

 ■密接な歴史だから

 韓国の歴史は、日本とも密接なつながりがある。

 「日本人が自分の国の歴史に思いをめぐらせる時、朝鮮半島のことを考えないわけにはいかない。日本の近代化の本質を見ようとすれば、避けて通れません。だから日本の読者が、韓国文学の最も濃厚な読者になるのは必然的ですね」

 今後は純文学の実験的な手法を使った作品や、古い作品を訳していきたいという。「『水面下の体積』が大きい作品にひかれます。書かれてはいないけれど推測するとこうではないかと、想像をかき立てられる。翻訳者ひとりでは読み切れていない部分もあり、読者からのお手紙で気づくこともあります」

 斎藤さんは現在、「現代史と韓国文学を組み合わせた本」を執筆中だ。韓国文学を読むために必要な歴史の知識を得られる構成にするという。

 最後に、韓国文学に触れたいという読者のために、おすすめの3冊を挙げてもらった。

 (1)「鄭芝溶詩選集 むくいぬ」(吉川凪訳、クオン)(2)キム・エラン「外は夏」(古川綾子訳、亜紀書房)(3)ユン・ソンヒ他「私のおばあちゃんへ」(橋本智保訳、書肆侃侃房)

 目利きの斎藤さんが選んだ作品、手に取ってみたい。

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 さいとう・まりこ 1960年、新潟県生まれ。明治大学文学部で考古学を専攻。サークルで韓国語の勉強を始めた。大学卒業後、校正や編集の仕事を続けた後、91~92年に韓国の延世大学に留学。近年、話題作を次々と翻訳している。訳書に「こびとが打ち上げた小さなボール」(チョ・セヒ、河出書房新社)、「ディディの傘」(ファン・ジョンウン、亜紀書房)など。